新型コロナウイルス感染症の流行を機に導入が進んだインサイドセールス。営業人材の人手不足の解消や受注率アップの効果が期待できるものの、導入に失敗する企業も少なくありません。
本記事ではインサイドセールスの役割や注目される背景、メリット・デメリットを解説。加えて営業手法や導入を成功させるためのポイントも紹介します。
岩本 隆(いわもと・たかし)
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。
インサイドセールスとは、メールや電話、Web会議ツールなどを使って潜在顧客や見込み客(リード)の購買意欲を促す内勤型の営業手法です。非対面で営業活動が完結するため、コロナを機に導入する企業が増えてきました。
業界や商材によって業務範囲が異なるものの、一般的に新規リードの獲得・育成、商談のアポ獲得などの役割を担います。既存顧客に対し、販売促進や追加提案ができるまでのつなぎ止めや顧客情報の管理もインサイドセールスの役割です。
インサイドセールスは、マーケティングと訪問営業(フィールドセールス)の仲介役となるため、従来型の訪問営業と比べて顧客とコンタクトをとる機会が増えます。要望を丁寧にヒアリングしてもらえるため、顧客には好意的に受け取られるでしょう。また、リードに素早く対応できる部門として、社内で重宝される場面が増えていくと予測されます。
訪問営業とは、直接見込み客を訪問し、商談と契約獲得に向けたクロージングを担当する外勤型営業です。
インサイドセールスを導入している場合は、マーケティングから渡されたリード育成、アポ獲得、契約といった従来の業務のうち、リード育成やアポ獲得は、インサイドセールスに分業されます。
そのため、訪問営業は商談に専念できるので、今まで以上にサンプルやデモを通して商品の具体的な魅力を伝えたり、難易度の高い交渉事を行ったりする機会に恵まれます。こうしたことから、訪問営業の役割は商談に集中し、成約率を上げることといえるでしょう。
一方、リード育成からアポ獲得までを担うインサイドセールスは、非対面コミュニケーションならではの強みを生かし、全国各地のリードに効率的にアプローチできるメリットがあります。また、これまで訪問営業が担当していたニーズが顕在化していないリードへの情報提供や育成なども、インサイドセールスの業務です。
これらの業務をインサイドセールスが担うため、購買意欲の低い顧客や自社商品・サービスのターゲット外の顧客と商談するといった営業活動の無駄を減らすことができます。
広義の意味で考えると、テレアポもインサイドセールスの一種。しかし、テレアポはあくまでも商談のアポを獲得するための電話業務です。
アポ獲得がテレアポの目的であるため、KPI(重要業績評価指標)は商談獲得件数のみ。商談獲得件数をもとにトークスクリプト(営業台本)の改善や架電リストをブラッシュアップして、商談獲得件数を増やしていきます。
一方、インサイドセールスの目的は、獲得したリードの育成や自社の受注条件に合う顧客との商談機会の獲得です。電話は目的達成の手段の一つにすぎません。メールやWeb会議ツールなど訪問以外のあらゆる手段を使ってリードと信頼関係を深め、受注確度を高めていきます。
ただし、電話をかけるだけでは商談に直結しないことも多いため、長期的な目線で顧客育成に取り組むことが求められます。
オンラインセールスとは、ZoomやTeamsなどを使ってビデオ通話で商談を行う営業手法です。インサイドセールスがリードの育成、アポ獲得までと範囲が限定されているのに対して、オンラインセールスは内勤で行う営業活動全般に対応します。
インサイドセールスは、1980年代頃にアメリカで発展した営業手法です。近年国内でインサイドセールスが注目される理由は、大きく分けて3つあります。
少子高齢化による労働人口の減少に伴い、現在企業の人手不足は深刻です。帝国データバンクの「特別企画:人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)」によると、47.8%もの企業が「正社員は不足している」と回答しています。
出典:帝国データバンク「特別企画:人手不足に対する企業の動向調査(2022年1月)」をもとに編集
また、厳しいノルマに加えて商談先への訪問、上長だけでなく関係各部門への冗長な報告会議などの無駄な業務も多く長時間労働を強いられることから、営業職は離職率が高い傾向にあります。
こうした背景から、インサイドセールスによる分業化で営業人材の不足をカバーせざるを得ない状況なのです。
定額制のサブスクリプションサービスが幅広い業界で普及したのも、インサイドセールスが注目される理由です。
近年、SaaS型クラウドサービスを提供するスタートアップ企業が増えています。その中でもBtoB向け製品を提供する企業は、顧客ネットワークを拡大したくても従業員が少ないため、訪問営業に対応できる人材とコストが不足しているという課題を抱えています。
限られたリソースで効率的に営業活動を行う手段として、スタートアップ企業でインサイドセールスの導入が進んでいるのです。
見方を変えれば、国内でインサイドセールスが浸透したおかげで、SaaS型クラウドサービスを提供するスタートアップ企業が参入しやすくなったといえます。
インターネットの普及に伴い、顧客が自主的に商品やサービスを調べてから購入を決断するのが当たり前の時代になりつつあります。
これまでは対面営業が主流であったBtoBビジネスでも同様の現象が起きていて、顧客は営業スタッフに会う前に購入プロセスの57%(※1)を完了させていることが判明。さらに2025年には購買チャネルの80%(※2)がデジタルになると予測されています。
こうした顧客の購買行動の変化に合わせて、今は営業手法を刷新する過渡期といえます。加えて顧客とのコミュニケーションも訪問、メール、電話といった既存の手段だけでなく、SNSやチャット、Web会議など非対面型のコミュニケーションツールも増えています。
デジタル主体の購買行動に合わせた営業手法の変化や、非対面型コミュニケーションツールの発達がインサイドセールスの導入を後押ししているのです。
※1:CEB, Customer Purchase Research Survey, 2011
※2:The Future of Sales in 2025: A Gartner Trend Insight Report
インサイドセールスを導入するメリットとデメリットを調べてみました。
インサイドセールスがリード育成を担うため、商談の段階で顧客の購買意欲は高くなっています。購入に前向きな顧客に対する商談なので、成約率は自ずと高くなります。
インターネットなどによる情報収集で資料請求をした新規リードは購買意欲が低いため、従来型の訪問営業では対応が手薄になりがちでした。しかし、インサイドセールスを導入すれば、インサイドセールスが新規リードから潜在ニーズを聞き出してくれるため、機会損失を防げるでしょう。
また、分業化に伴い営業スタッフの業務負担が軽減されるので、残業を減らすこともできます。その分の空いた時間を新人や営業成績が伸びない営業スタッフの教育に充てることも可能です。
多くの企業で営業スタッフのスキル標準化は深刻な課題となっています。インサイドセールスはWeb会議やチャットなどデジタルツールを活用するため、これらの対応履歴がノウハウとなります。トップ営業スタッフのノウハウを共有することで、全社的な営業スキルの底上げが実現できるのです。
これまでは訪問営業が担っていた一連の業務をインサイドセールスと分業することから、顧客情報や進捗状況などのリアルタイムな情報共有が求められます。
それを実現するには、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)、MA(マーケティング活動の自動化)、Web会議ツールといったICTツールが欠かせません。そのため、ICTツールの導入・運用費が発生します。ICTツールの導入に伴い業務フローの見直しが必要となる場合もあるでしょう。
業界や扱う商材によって抜本的な組織体制の変更や業務整理が必要となり、多大な時間とコストがかかる可能性もあります。
また、以下の商材はインサイドセールスに向きません。
・不動産や車などの高額な商材
・個別設計・構築が必要なBtoB商材
特にBtoB商材は顧客への説明が必要な商材が多いため、インサイドセールスが獲得したアポを訪問営業につなげて商談に進んでも、成果を出せないケースが多くの企業で発生しています。
BtoBビジネスを展開する大企業は新型コロナを機にインサイドセールスを導入したものの、オンライン商談では顧客の心をつかむことが難しいため、最近は従来型の訪問営業に戻す企業も増えています。
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インサイドセールスは、大きく分けてインバウンド営業とアウトバウンド営業の2種類あります。
インバウンド営業で新規リードにコンタクトをとるインサイドセールスをSDR(Sales Development Representative)といいます。
SDR主体のインサイドセールスは、主に以下のマーケティング施策で集まったリードに対し、購買意欲を高めていきます。
・公式サイトやランディングページからのお問い合わせ
・ウェビナー参加者
・資料やホワイトペーパーのダウンロード
SDRで対応するリードは、見込み客が自社の商品・サービスに興味・関心があり、能動的にお問い合わせや資料請求などを行っているため、ニーズは顕在化しています。そのため、初回アプローチのハードルが低く、アポ獲得や商談につなげやすいというメリットがあります。
ただし、問い合わせや資料請求を増やすといったマーケティング施策が確立していない企業がSDR主体のインサイドセールスを取り入れても、リードを集めることができないので注意しましょう。
テレアポやDMなどでアウトバウンド営業を行うインサイドセールスをBDR(Business Development Representative)といいます。
過去に全く接点のない顧客に対してインサイドセールスが能動的にアプローチするため、アポ獲得や商談につなげる難易度は高くなります。
BDRで接するリードには「購買意欲がない」「商材・サービスを認知していない」企業もあるため、リード育成に時間がかかり、営業コストが高くなるケースも珍しくありません。
こうした理由から、BDRのターゲットは営業コストに見合った大口注文が望める中堅・大企業、公的機関に限定される傾向にあります。
インサイドセールスを導入しても、失敗に終わる企業も少なくありません。成功させるポイントを「導入前の準備」と「運用を定着させるコツ」の2つの視点で解説します。
インサイドセールスは、マーケティングと訪問営業が密接に連携することで効果を発揮します。3つの部門が連携して業務を進めるため、各担当者が単独で動くと業務が重複し、営業活動に支障をきたす恐れがあります。
導入効果を発揮するためにも、最初にリード獲得からクロージングまでの全体像を描き、その中でインサイドセールスが機能する業務としない業務を明確に整理しなければなりません。
インサイドセールスが機能する部分を明確にしたうえで、業務体制を構築し、それに対応できる人材を確保します。人材を確保したら、担当者によって顧客対応の違いが出ないようにトークスクリプトを作成しましょう。
3つの部門間でスムーズな連携をとるためには、SFAやCRM、MAなどのICTツールが不可欠です。インサイドセールスの導入でよくある失敗は、これらのツールありきで始めてしまうことです。ツールはあくまでも目的達成の手段にすぎません。「インサイドセールスでどんな業務課題を解決したいか」を明確にしてからICTツールを選定しましょう。
また、適切なKPIの設定も導入前に必要な作業です。インサイドセールスでは、以下をKPIとして設定することが一般的です。
・メール開封数
・架電数・架電率
・商談化数・商談化率
・受注数・受注率
・受注額
会社全体の戦略に基づき達成可能な数値を設定しましょう。
実運用に入ってからは、成果を出すために、日々の営業活動の質と量を高めていくための試行錯誤が求められます。導入前に設定したすべてのKPIに対して満遍なくアクションを起こすのではなく、「どのKPIが重要であるか」を常に把握しなければなりません。最も重要なKPIに注力することで、クロージングの数と率が向上します。
インサイドセールスを導入する企業の多くは、商談化数・商談化率や受注数・受注率にばかり注目して、商談や受注の失注原因をあまり深掘りしません。1カ月や四半期ごとなど、定期的に振り返りを行い、「なぜ商談化や受注に成功したか」「何が理由で失敗したか」を分析し、チームで話し合いましょう。
また、インサイドセールスの手法は短期間で変化します。数カ月前に成功した手法が、今も通用するとは限りません。最新の情報が得られる体制を構築し、これらをナレッジとしてチームで共有することも重要です。
インサイドセールスを導入すると購買意欲の高いリードに絞って商談に臨めるため、無駄のない営業活動で受注率アップが期待できます。それを実現するためにはSFAやCRM、MAなどのICTツールを活用し、インサイドセールスとマーケティング、訪問営業という3つの部門が密接に連携できる組織体制を構築しなければなりません。
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※本記事は2022/08時点の情報です。