「営業活動の無駄や属人化を解消したい」と思っても、業務改善に十分な時間を取れない営業管理職はたくさんいるでしょう
これらの課題を解決できるパイプライン管理の目的や実践方法およびICTツールについて解説します。効率的な営業活動で売上拡大を実現したい企業は、参考にしてみてください。
岩本 隆(いわもと・たかし)
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。
パイプライン管理とは、営業活動で発生するすべての業務を可視化し、商談や成約の妨げとなる原因を分析・改善するマネジメント手法です。
業種や扱う商材にもよりますが、顧客とのファーストコンタクトから成約に至るまでは、下の図のような業務フローで進みます。
そのため、多くの企業が業務効率化や売上拡大、営業スタッフの育成などを目的としてパイプライン管理を導入しています。
パイプライン管理が重視される理由は、営業部門が抱える様々な課題を解決できない企業が多いからです。
営業部門の目的は売上拡大で、それを実現するには組織全体で営業スキルの底上げが必要です。しかし、多くの企業で売上目標の達成は優秀な営業スタッフの経験や勘に頼りがちで、売上未達のメンバーに対して十分なフォローができていないのが現状です。
産業能率大学総合研究所が2021年9月に実施した「第2回 上場企業の部長に関する実態調査」によると、96.9%の部長がプレイングマネジャーであると判明。全体の仕事におけるプレイヤー業務の加重平均は43.9%にも上ります。
「プレイヤーとしての活動は、あなたのマネジメント業務に何らかの支障がありますか」という質問に対し、48.8%が「支障がある」と回答。
この結果から、営業管理職はプレイングマネジャーであるため、チーム全体と自分の目標を達成しなければならない状態と推測できます。自分の営業活動もあるため、部下の育成や業務改善は後回しにせざるを得ないのでしょう。
こうした背景から、いくら国が働き方改革を推進しても、企業は営業部門の業務効率化を実現できないという課題を抱えています。このような慢性的な課題を解決する手段として、現在パイプライン管理が注目されているのです。
パイプライン管理の重要性を理解したところで、4つの導入メリットを確認していきましょう。
各営業スタッフが抱える案件ごとの商談プロセスが可視化されるため、課題を速やかに特定できるようになります。
例えば、3カ月連続で売上目標未達のチームがあったとします。チーム内で問題点の洗い出しを行っても、業務が可視化されていないため、未達の原因はあくまでも推測の域を出ません。
しかし、パイプライン管理を導入すれば、営業成績の良いチームと悪いチームの活動履歴をデータで比較できます。客観的なデータから未達の原因を特定できるので、改善施策を考える時間も大幅に短縮できるでしょう。
中長期的な売上目標を立てやすくなるのもパイプライン管理のメリットです。
蓄積されたデータをパイプラインに沿って分析すると、案件別に以下の数字が計算できます。
・営業プロセス別のCVR※
・全案件の成約率
・商談につなげるために創出すべき案件数
・案件を確保するために必要なリード(見込み客)の数
※CVR=Conversion Rate(顧客転換率)の略
これらの数字をもとに営業スタッフの行動量を逆算することで、四半期や年度ごとに適切な営業目標の策定が実現します。
逆に、営業目標から「既存顧客の訪問回数を増やす」「新規顧客の開拓に注力する」などの行動計画が立てられるので、適切な人員配置も可能となるでしょう。
営業スタッフの以下の行動履歴がグラフや表で視覚的に確認できるので、適切な個別指導が行えます。
・顧客へのアプローチ数
・アポ獲得数
・ヒアリング・プレゼン実施数
・提案数・見積提出数
・クロージング・受注数
これらの数字が分かると、営業スタッフ1人ひとりの得意分野と苦手分野が一目瞭然になります。
営業管理職は部下の苦手分野の重点的なフォローが行えるようになるため、組織全体で営業スキルの底上げが実現します。
部下も自分の行動履歴を客観的に把握することで、専念すべき案件と後回しにすべき案件が明らかになるため、無駄な業務を削減できるでしょう。
パイプライン管理で取得したデータは、費用対効果の高いマーケティング施策を考えるうえで役立ちます。
顧客とのファーストコンタクトから成約までの行動履歴を追うことで、成約率の高い流入経路と低い流入経路が特定できるからです。多額の費用をかけて販促活動を行っても、売上につながらなければ意味がありません。
成約率の高い流入経路の販促活動を強化すれば、無駄のない営業活動が行えるようになります。また、成約率の低い流入経路への投資を最小限に抑えることで、貴重な営業リソースを消耗させる心配もありません。
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ここからは、実践的なパイプライン管理の手法を解説します。
最初にやることは商談プロセスの定義づけです。
定義づけは「自社の商談プロセスの細分化」「細分化した項目の定義づけ」という流れで行います。
■自社の商談プロセスの細分化
購入の決定権は顧客にあるため、「顧客の行動」から自社の商談プロセスを細分化します。細分化するときは、商談プロセスを細かく分けすぎないようにしましょう。
詳細なデータを取った方が効果的であると思われがちですが、実務上の問題点が把握できるデータの粒度で問題ありません。客観的な全体像が把握できる程度で十分です。
■細分化した項目の定義づけ
細分化した商談プロセスの項目は「顧客の具体的な状態」から定義します。営業スタッフによって作業内容や呼び方が異なるため、共通認識のない状態でデータを収集してもパイプライン管理の効果を発揮できません。
ヒアリングなら「BANT※条件をクリアしている」、提案なら「リスナーは決裁者である」など具体的に定義したうえで、全社で共有しましょう。
※BANT=Budget(予算)、Authority(決済権)、Needs(ニーズ・需要)、Time frame(導入時期)の頭文字をとった略語
「何をすれば次のプロセスに進めるか」といった、各商談プロセスのゴールを明確にします。
パイプライン管理の目的は、営業活動の生産性を高めることです。細分化した商談プロセスの行動履歴を収集するだけでは意味がありません。
成約に向けて次の商談プロセスに進むためにも、各商談プロセスのゴールを全社の共通認識とすることで生産性の高い営業活動が実現するのです。
ゴールは「数字や役職」「顧客の行動」「BANT条件」など、誰でも理解できる具体的なものにしましょう。
現在抱えている全案件の営業記録を洗い出し、定義した商談プロセスと設定したゴールに当てはめて以下の数字を算出します。
・商談プロセスごとの顧客数
・次のプロセスに進めるCVR
これらの数字が明確になると、商談プロセスの定義やゴールの設定の落とし穴を発見できるかもしれません。担当者ごとの認識のズレをなくすためにも、この作業は全社で行うべきです。
商談プロセスと各案件の可視化が終わったら、営業管理職は各商談プロセスの進捗状況を以下のポイントを参考にして毎週確認しましょう。
・各商談プロセス別に顧客の増減数を前週と比較
・前週と比べて顧客が増減した理由
・今週で次の商談プロセスに進む顧客数の予測
・売上目標に対する現在の達成率
・商談が難航する案件の改善策
これらを把握することで、営業活動の具体的な問題点を知り解決策を講じることができます。毎週繰り返しチーム全体で共有することで、組織全体の方向性が統一され、営業活動が改善されていくのです。
最新のデータから営業活動の問題点を分析・改善するパイプライン管理には、ICTツールの導入が欠かせません。
パイプライン管理によく使われるICTツールには、ExcelとSFA(営業支援ツール)があります。先に結論を述べると、パイプライン管理にはSFAの利用がおすすめです。
■ExcelとSFAの比較表
Excelは業務PCに標準搭載されているため、導入コストは無料です。ほとんどの社員が基本操作をマスターしていることから教育コストもかかりません。
インターネット上に営業管理用のテンプレートが豊富にあるため、これらをカスタマイズすれば自社に最適なフォーマットでパイプライン管理が行えます。
しかし、共同編集機能をONにしても、グラフやピポットテーブルなどパイプライン管理に必要な機能は利用できません。そもそもExcelはマウスやキーボードで入力することを前提に作られたソフトです。モバイル版のExcelのデータ入力にはコツがいるので、慣れるまで時間がかかるでしょう。
また、営業チームが複数ある企業は、チーム別のパイプラインを比較するために複雑な条件を組み合わせてデータを抽出することが必要になる場面もあります。Excelはマクロを使えば複雑な条件のデータを抽出できますが、それにはプログラミングの知識が欠かせません。
こうした理由から、業務の可視化やリアルタイムの情報共有、行動履歴の分析など、パイプライン管理に必要な作業をExcelで行うには限界があります。
SFAは導入や保守運用のコストがかかるものの、データの同時編集が可能です。入力情報は即時反映されるため、常に最新のデータを全社で共有できます。モバイルに最適化された製品も多いため、外出先でのデータ入力もストレスになりません。
蓄積されたデータは、商談ステータスや受注確度など様々な条件で抽出できるので、パイプライン管理に必要な業務の可視化が効率的に行えます。失注した案件だけ抽出して、どの商談で何が原因で失注したかといった詳細な分析も可能です。
日鉄日立システムエンジニアリング株式会社が提供するSFA「LaXiTera」であれば、日報入力が簡単にでき、顧客情報のメンテナンスがほとんど発生しないため、データの入力漏れを大幅に減らすことができます。専用サポートも用意されているため、運用中にトラブルが起きてもすぐに解決できる点も大きなメリットです。
売上金額だけを追ったり、優秀な営業スタッフの経験や勘に頼ったりする旧態依然の営業スタイルだと、いつまでたっても営業活動の無駄はなくなりません。部下の育成や業務改善まで手が回らない営業管理職は、全案件の業務フローを客観的に可視化、分析・改善できるパイプライン管理を試してみるとよいでしょう。
より精度の高いパイプライン管理を行うにはSFAの導入が欠かせません。SFAを活用したパイプライン管理で営業スタッフのスキル標準化や売上拡大を実現したい企業は、日鉄日立システムエンジニアリング株式会社の「LaXiTera」も選択肢の1つとしてご検討ください。
※本記事は2022/08時点の情報です。